親 愛 -2-

何とか無事に色の誕生日が過ぎると、今度は志穂の誕生日が迫っていた。奈津実や珠美ほど好みが分かりやすくない志穂へのプレゼントに、みんなあれこれと思い悩んでいる。ここのところ、志穂がいない時には決まってその話題へと移っていくのだった。
「ねぇねぇ、で、タマちゃんは結局何にしたの?」
珊瑚が重なってはまずいと聞いてみると、内容が決まって少し余裕のある珠美にはにっこり笑って
「内緒。」
とだけ言われてしまった。珊瑚は口をへの字にしてぐうの音も出ない。
「じゃさ、重なっちゃマズイから何かヒントだけでも…。」
と和奏が頼み込むと、うーんと考えてから珠美は口を開いた。
「えっとね、食べ物。手作りの。これ以上は内緒。」
「あ、うん、わかった!タマちゃん特製の何か、なんだね?」
うふふと笑う珠美の様子は、多分合っているのだろう。そして、珊瑚は今度は瑞希にも聞いてみた。
「瑞希さんは、何かプレゼント考えた?」
「てか、前にみんなの誕生日メモしてたよね?」
今まで黙って聞いていた瑞希が珊瑚と奈津実のその言葉に目を丸くした後、眉(まゆ)をつり上げた。
「ミズキが?どうして?」
「え…だって“友達”でしょ?」
と和奏が問うと不信げな様子のまま瑞希は言った。
「有沢さんが?まさか!」
そして腕を組んで笑みを見せると瑞希は言い切ったのだった。
「mon ami -ミズキのともだち- は如月さんだけよ?」
一瞬沈黙した後、その場の全員が頭を抱えたのはいうまでもない。

「お嬢もあれで悪気はないんだろうけど…ちょーっとあんまりだよねぇ。」
その場に志穂がたまたまいなかったからよかったようなものの、かなりの問題発言だった。瑞希が本当に心を許しているのは、実際和奏ぐらいのものだろうことはよっくわかる。それはわかるのだが、ではじゃぁ“なぜ”自分達ともいつも一緒にいるのか、ということは頭にないのだ。和奏ほどではないにしろ、みんな瑞希が自分達にも他のクラスメイトよりは心を開いてくれてると信じているし、瑞希の言葉の端々にそれが感じ取れるのである。
「藤井ちゃんの誕生日の時にわかったもんだと思ってたんだけど…。あのコの“ともだち”って定義を一度ちゃんと聞いてみたいもんだわ。」
メールチェックをしながら珊瑚はひとりごちていた。あの後、瑞希の自称 mon ami である和奏が瑞希に色々と話していたからある程度、和奏以外のメンバーも友達であることを受け入れてくれてはいるだろうが。
「あ、ちはるちゃんからメールが来てる♪どれどれ…。」
ひとまず瑞希のことは置いておいて、久しぶりにきたちはるからのメールに目を通すことにした。

“珊瑚、こんにちは。
  日本語もわかりはじめ、
  高校生活も少しずつ慣れました。
  例えば、学校の制服です。
  アメリカのハイスクールでは、あまり制服を着ません。
  私の学校、学ランとセーラー服を着ます。
  私はとても気に入りました。
  でも、まだ慣れないことも多いです。
  私は今でも時々、靴のまま教室に入ってしまいます。
  土足ですね。
  クラスメイトの中には、嫌な顔をする人がいます。
  そういう時は、とても悲しいです。
  文化の違いは難しいです。

 ちはる”

「やっぱりアメリカと日本じゃあ違うところも多いだろうな。」
ちはるもまた、自分の感覚とクラスメイト達との感覚のずれに悩んでいるようだ。自分でわかっている分だけ、瑞希よりもずっと柔軟な物の考え方が出来ているのは、ちはるのいいところでもあるように思う。珊瑚は少し考えた後、
「うん、どちらにもいいところがあるよ。」
と結論づけ、その旨を珊瑚なりの言葉でメールにしたためて送信した。

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週末の商店街に珊瑚と和奏の姿があった。もちろん志穂の誕生日プレゼントを買うために連れ立ってやってきたのである。奈津実も未(いま)だ悩み中とのことで何をプレゼントするのかは結局聞けていないのだが、決まったらお互いに連絡するように約束してある。志穂と言えばやはり勉強、というイメージが強くてそこから抜け出せない珊瑚は困り切っていた。
「わぁちゃん、何か考えついた?」
「うん、ちょっとね、守村くんにアドバイスもらったから。」
意味ありげな笑顔で歩いていく和奏には目的の店もちゃんとあるようだ。
「え?なんで、守村に?」
疑問符いっぱいの珊瑚の言葉に和奏は笑顔を向けてこういった。
「ほら、この前、はばたき書店で2人がよく会うらしい話してたじゃない?」
「あぁ、あのありりんが機嫌悪くなったときの話ね?」
「うんうん。機嫌悪くなったとかってのは置いておいて、書店で良く会うって事はそれなりに2人の間に会話があると思わない?」
「あ、なるほど。それで守村に。」
納得した珊瑚は和奏に任せて後を着いていくことに決めた。

結局、文房具屋で珊瑚は落ち着いた色合いのアマリリス柄ブックカバーを、和奏は連翹(れんぎょう)の押し花のしおりを購入した。どちらも志穂なら使ってくれそうだとそれぞれに気に入ったものだ。
「もしもーし、藤井ちゃん?」
約束通り、早速珊瑚が奈津実に電話を入れた。
「オッス!2人とも決まったの?」
「うんそう。私がブックカバーで、和奏がしおりだよ。」
「あぁ、なるほどネ。志穂にはぴったりのアイテムだわ、それ。」
「藤井ちゃんは決まった?」
「それがさー、あれこれ悩んじゃってて…。でも、お2人さんのプレゼントを聞いたから迷いがちょっと無くなったわ。サンキュー♪」
「そかそか、それなら良かった。良いものが見つかるといいね。」
「うん、ありがとう★和奏にもよろしくねー♪」
「うん、じゃぁ、また明日ね♪」
と電話を切り、和奏に向き直る。
「ふじ…じゃなくて、なつみん、なんて?」
「悩みすぎててまだ決めかねてるみたいよ。でも、私達の品がわかったから絞れそうだって。」
「そっか、良かったぁ。」
と胸を撫で下ろすと、和奏は時間を確かめて珊瑚に言った。
「……んじゃぁ、そろそろ家に帰ろう?」
「そだね。結構いいものが手に入ったし♪」
そう機嫌良く駅前広場に差し掛かったときだった。
「すみません。」
と掛けられた声に振り向くと穏和な瞳(め)の少年がそこに立っていた。
「あの、公園はどこにありますか。」
「公園?」
「公園ならここの道をまっすぐ行ってその後……。」
不思議そうに首を傾(かし)げる和奏に変わって、珊瑚が簡単に道順を説明すると、その少年は笑顔になった。
「よくわかりました。ありがとう。」
そう言って手を振ると珊瑚に言われたとおりに歩いていく。その後ろ姿を見て、和奏は何か引っかかる物を感じた。
「……ん?どしたの?」
「あの人、前にも会ったような……。」

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