はなやぎ -2-

パーティーではプレゼント交換会が行われると招待状に書いてあったため、当日である今日は2人別々に買い物に出ていた。パーティー自体は夕方からなのでそれまでは時間があるし、それがわかっていたので、昨日のうちに買いに行くことはしなかったのである。折角のプレゼント交換会、事前にお互いが用意したプレゼントがわかっていてはつまらないと思ったのだ。
「わぁちゃんは、公園通りに行くって言ってたよね。」
商店街への道のりを歩きながら、抜かりなく店先にディスプレイされている商品をチェックしていく。
「うーん、どくろクマねぇ…。最近流行ってるらしいけど、私はあんまり好きじゃないんだよねぇ。」
クリスマス用に衣装替えをされたどくろクマを目の前に、眉(まゆ)を寄せて首を傾(かし)げる珊瑚。自分が気に入らない物を贈っても仕方がないと、また歩き出す。と、
「あ、アレ… いいかも!!」
商店街の一番奥で、様々なガラス細工が並んでいる店を見つけた。道路側にディスプレイされている商品はどれも大きく高価な物ばかりだが、奥を覗(のぞ)くともっと小さな物もあるようだ。小さな物なら手頃な値段の物もあるかもしれないと、珊瑚は扉に手をかけた。
「いらっしゃいませ。」
落ち着いた男性の声に出迎えられ少し気後れしたが、それ以上特に近寄ってくるでもなく声をかけるでもなかったので、珊瑚は落ち着いて1つ1つゆっくりと品物を見ていった。
(どれもこれもホントに綺麗… あ、あのクリスマスツリー、すごーい!)
ガラスで出来た高さ30cm程のツリーに、色づけされた丸いガラスの飾りが付けられている。電飾の飾りがなくても、柔らかな光を反射してキラキラと輝いていた。一目で気に入ったのだが…。
(……た、高っ!! まぁ、そうだろうと思ったけどね。)
ふぅっと一つため息をついて、珊瑚はもっと安価な棚の方へと足を進めていった。
「…あっ!!」
思わず声が出てしまった口元を手で押さえると、珊瑚はそっとそれを手に取った。
(すごぉい… ヒムロッチにぴったり…。)
珊瑚が目に留めたのはガラスの筆立て。余計な装飾は一切なく、シンプルでいて且つ形は斬新(ざんしん)。まさに零一に似合いのものだった。
(うぅ… どうしよう…。でもなぁ… これだったら逆に先生はもちろん、男の子も女の子も大丈夫だし…。)
値段を確認してみると1リッチ。懐寂しい状態の珊瑚にとっては、これ以上ないお買い得品である。ガラスの筆立てを手にしたまま唸(うな)っている彼女に、先ほどの店員が声をかけた。
「お気に召されましたか?」
「はい……。あ、でも……。」
「プレゼントする側が気に入った物が何よりも一番でございますよ。」
そう言って微笑む店員に後押しされ、珊瑚はそのガラスの筆立てに決めた。
「よし、プレゼントも買ったし、一度、家に戻って着替えよう!」

一方、こちらは公園通りの和奏。ブティックや雑貨屋に目を奪われながらも、目的の物を探しに角を曲がる。
(確か… この辺にあったと思うんだけど。)
その筋は文房具を扱っている店が中心の筋だった。通称、はばたき銀座と言われているブティックの筋とは違って少し落ち着いた感がある。
(あ、あった!ココ、ココ。)
以前から目を付けていたそこは、カレンダーの種類が豊富な文房具店の一つであった。時期も時期なので、来年のカレンダーが所狭しと並べられている。
(クリスマスプレゼントだから、あまり大きくない方がいいよね… CDサイズぐらいが妥当かな?)
等々と考えながら、棚を移動していく。CDサイズと限定してもかなりの種類があった。
(うわぁ〜… この中から決めるのはさすがに大変そう…。)
とはいえ、そうも言ってられないのが実情である。和奏は棚に手を伸ばしてひとまずは目を引く物をいくつかピックアップすることにした。
(コレとコレと… 後、コレ…。あ、こうやってみると、気に入るモノって割と限られてくるかも。)
最終的に残ったのは3つ。風景の写真と、季節毎の絵柄と、仔猫の物だった。
(風景か季節の絵柄が妥当なんだろうけどなぁ… 先生や男の子に当たるかもしれないし…。でも…。)
どうしても仔猫のカレンダーが諦(あきら)められなかった。ここまで気になるからにはこれを買うのが後悔もないだろうと、和奏は購入に踏み切った。
「1リッチでございます。」
「あの、クリスマスのプレゼント用にラッピングして頂けますか?」
「かしこまりました。クリスマス用でしたら… リボンは、赤と緑とどちらに致しましょうか?」
「そうですね… じゃ、緑の方でお願いします。」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」
程なくしてプレゼントを受け取り、和奏は家へと急いだ。
「さて、プレゼントも買ったし、一度、家に戻って着替えなくちゃ。」
こうして2人とも無事にプレゼントを購入して、クリスマスパーティーへと繰り出したのだった。

ライン

天之橋邸はさすがと言えるほど豪華で大きな邸(やしき)だった。門から建物までもかなりの距離がある。庭には大きなクリスマスツリーが飾り付けられてあり、他の木々も飾り付けられていてクリスマスムードを盛り上げていた。入口で学年とクラス、名前を告げると会場へと案内されていく。珊瑚はすぐに和奏を見つけて側へ寄った。
「わぁちゃん!」
「あ、さぁちゃん。メリークリスマス。」
「メリークリスマス♪しっかし、すごい人だねぇ…。」
「そりゃ、学園中の人が集まってるんだもん…。」
「そうだよね。先生も呼ばれてるんだし。」
遠目に零一の姿を見つけた珊瑚はそう言って笑顔を見せる。話す時間があるかどうかはともかく、いつもと違ったフォーマルなスーツ姿の零一というのはなかなか見られるものではないので、その姿が見られただけでも珊瑚は素直に喜んだ。
「あー、カメラ持ってくればよかった。」
「でも、邪魔になるよ?」
「それもそっか…。」
「あれ、何か始まるみたい……。」
時間になったようで照明が少し落とされ、一番奥の真ん中辺りにスポットライトが照らされた。どうやらそこに本日の主催者である理事長がいるらしい。
「紳士、淑女のみなさん。本日はようこそこの、天之橋邸へ。」
入学式の時にも聞いた、朗々とした声が会場に響く。
「どうかみなさん、今夜はゆったりと、おくつろぎください。そして、心ゆくまで楽しみましょう、このクリスマスイブを。」
長々と余計な美辞麗句のない、簡単な挨拶(あいさつ)だ。入学式の時もそんな感じだった。そして、ノンアルコールのシャンパンが手渡される。
「メリークリスマス!」
「メリークリスマス!!」
理事長の声に合わせて、会場の全員が唱和すると、そこここでグラスの合わさる音が響いた。珊瑚と和奏も軽くグラスを触れあわせ、シャンパンを一口飲んだ。
「立食形式なんだね。」
「うんうん、美味(おい)しそうなモノがあっちにいっぱい並んでるよ。」
「んじゃ、取りに行こう。」
辺りに見知った人がいなかったので、まずは腹ごしらえと2人は料理を取りに行った。

それなりに満たされたところで、志穂が2人を見つけて近寄ってきた。
「珊瑚さん、如月さん。あなた達も来てたの。」
「あ、ありりん!」
「うん、せっかくのパーティーだもん。」
2人がそう言うと、志穂もにこやかな笑みを浮かべて珍しく、
「そうね、来なきゃ損ね……。」
と言って、談笑に加わった。しばらくして、奈津実と珠美もやってきた。
「お3人さん。メリークリスマス!!」
「あ、来てたんだね、珊瑚ちゃんに和奏ちゃんに志穂さん。メリークリスマス。」
「あ、藤井ちゃん、タマちゃん、メリークリスマス!」
「うん、メリークリスマス!」
「メリークリスマス。」
「ねね?どれが一番美味(おい)しかった?アタシはねぇ…。」
と今日出された料理の話で盛り上がっていると、遅れて瑞希も姿を現す。
「皆さん。Joueux Noël -クリスマスおめでとう- !! 楽しんでるかしら?」
「あ、須藤さん、メリークリスマス!」
「メリークリスマス♪」
「ミズキはこの、洋ナシのコンポートが気に入ったわ。うちのシェフのと同じぐらい美味(おい)しいんですもの。」
「へぇ〜。さすがリジチョー邸ってカンジ?」
瑞希が他人を褒めることはおろか自分と同じぐらい、と言うことでさえ滅多にない。そう褒めるからにはかなりの美味(おい)しさなのだろう。奈津実が感心してそう言うと、瑞希は素直に頷(うなず)いた。
「Oui -ええ- 、そうなるわね。」
「へぇー!じゃ、私ももらってこよう!わぁちゃんもいる?」
「あ、うん、お願い。」
「オッケー。ちょっと待っててね。」
と珊瑚が輪を離れると志穂が口を挟んだ。
「じゃ、私はこれで。先生にご挨拶(あいさつ)してくるから。」
「あ、うん。またね。」
「あの、じゃあ、わたしも、そろそろ行くね……。」
それに珠美も追随する。2人を見送った後に珊瑚が戻ってきた。
「あれ?ありりんとタマちゃんは?」
「有沢さんは先生方にご挨拶(あいさつ)、だって。」
「珠美は部活のメンバーのとこにでも行ったんじゃない?」
自分の分も取ってきてくれた珊瑚に礼を言いながら、奈津実がそう返す。
「じゃあ、ね。Excusez-moi -しつれい-。 」
「あ、須藤さん、またね。」
「じゃあねぇ〜。」
「じゃあ、アタシも、ちょっと友達のトコ回ってくるからさ!」
「うん、藤井ちゃんもまたね。」
「ばいば〜い。」
こうしてまた2人になると、どちらからともなく視線を合わせてため息をついた。
「……みんな、ドレスアップしてたねぇー。」
「うん、誰も何も言わなかったけど、みんな綺麗だったねぇ。」
「来年はちゃんとドレスアップしてこようね。」
「そだね。この格好も浮いてる訳じゃないけど、やっぱりちょっと悔しいもんね。」
と、もうすでに来年の話をしている2人であった。

ライン



Copyright © TEBE All Rights Reserved.